スサノオはさらに尋ねました。
「そのヤマタノオロチというのは、どんな見た目なのだい?」
「目玉はホオズキみたいに真っ赤で、ひとつの身体に八つの頭と八つの尻尾が付いています。身体には苔やらヒノキやらスギの木まで生え、体長は谷を八つ、峰を八つ渡るほども長くて、腹は血がにじんでいます」
それを聞いたスサノオは、こう切り出しました。
「…あなたの娘さんを、俺にくれないかい?」
老父は、
「…恐縮ですが、あなたさまのお名前をお聞かせください」
と尋ね返します。
「私はアマテラスの弟です。たった今しがた、天から降りて来ました」
それを聞いたアシナヅチとテナヅチは、
「それはなんと畏れ多いこと! 謹んで差し上げます」
と答えたのでした。
そしてスサノオは、ただちに娘の姿を湯津爪櫛(ゆつつまぐし)という櫛に変えてしまいました。その櫛をみずらに挿したスサノオは、アシナヅチとテナヅチに次のように命じます。
「あなたがたは、度の強い酒をたっぷり作ってください。それから家の周りに垣を張り巡らせて、八つの出入り口を造り、そこに台を置いて、台の上には酒を用意してください」
ふたりが言われたとおりに準備を進めて待っていると、老父の証言どおりにヤマタノオロチがやって来ました。
ヤマタノオロチは八つの首を八つの酒壷に突っ込んで、酒をぐびぐび飲み干して行きます。酔ったヤマタノオロチはそのまま寝入ってしまいました。
その隙にスサノオは、ヤマタノオロチを剣でめった刺し。斐伊川はヤマタノオロチの血で真っ赤に染まりました。
しかしスサノオがヤマタノオロチの中の尾を斬りつけたとき、剣の先が欠けてしまいます。なぜ?と思って尾を剣で切り開いてみたところ、中から大きな刀が姿を見せました。
太刀を手にしたスサノオは、これは珍奇なものだと思い、アマテラスにプレゼントしました。この太刀こそ、草薙剣(くさなぎのつるぎ・三種の神器のひとつ)なのでした。
こんないきさつがあって、スサノオは住む場所を、出雲(島根県)の地で探すことになりました。
須賀(すが・島根県雲南市)にたどりついたスサノオ。
「ここはとっても気分が『すがすが』しい場所だなあ」
この地を気に入り、御殿を建てることにしました。これにより、この地を今では「すが」と呼ぶのです。
スサノオが御殿を造り始めたとき、地面から雲が立ち昇りました。これを見て歌を詠みました。
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
(多くの雲が立ち昇る。雲が垣根のように重なり、妻を囲いこんで幾重にも守ってくれる素晴らしい御殿を造ろう)
スサノオはアシナヅチを呼び、出来上った御殿の管理主に任命しました。
そしてクシナダヒメと結婚し、子が生まれます。
その子は山の神のオオヤマツミの娘と結婚し、また子を生みました。生まれたその子の玄孫(やしゃご・ひ孫の子)にあたる神が、大国主(おおくにぬし)です。
画像引用:一般社団法人 雲南市観光協会(http://www.unnan-kankou.jp/contents/orochi/16)