トヨタマヒメはその玉を見て、召使にこう尋ねました。
「もしや門の外に誰かいるの?」
「泉の木の上に人が座っていました。これがまたイケメンでして。ご主人のワタツミ様以上にステキな人でした。
彼が水を欲しがったのでさしあげたところ、水を飲まずにこの玉をペッと吐き出したのです。しかも取ろうにも取れないのです。だからそのまま持って参りました」
トヨタマヒメはおかしな話だと思って、外に出てみました。そして山幸彦の姿を見た瞬間、一目惚れしてしまったのでした。
そして父のワタツミに向かって、
「門のところにイケメンがいます」
と言いました。
ワタツミも門まで見に行き、
「この人は高天原の神の子で、天と地上の世界の間に存在する神であるぞ」
と言って、すぐに彼を御殿の中に連れて入りました。
ワタツミは、アシカの革を何重にも敷き、その上に絹を何重にも敷いた上に山幸彦を座らせました。そしてたくさんの台の上に品物を載せたご馳走でもてなし、すぐさま娘のトヨタマヒメと結婚させたのでした。
山幸彦はその後、三年そこで暮らしたのです。
あるとき、山幸彦は兄の釣り針を探しに来た当初の目的を思い出し、大きく溜息をつきました。
トヨタマヒメはそれを見て、ワタツミに、
「三年一緒に暮らしてきましたが、溜息をつくなんてこれまでなかったのに、今夜は大きな溜息を…何かあったのでしょうか」
と相談しました。
父の神は娘婿に対して、
「今朝、娘が『三年一緒に暮らしてきましたが、溜息をつくなんてこれまでなかったのに、今夜は大きな溜息を』と言ってたのですが、何か理由でも…?
そしてここに来た理由は何なのですか?」
と質問しました。
山幸彦は、釣り針を失くして兄に責められていることを明かします。その話を聞いたワタツミは、海の大きな魚から小さな魚まで全てを集め、
「この中に、かくかくしかじかの釣り針を取った魚は居るか」
と問いました。
すると、たくさんの魚たちが、
「近ごろ赤い鯛が、ノドに何かが刺さって物を食べられないと泣きごとを言っていましたから、きっとその釣り針じゃないかと思います」
と進言したのでした。
赤い鯛を探して、そのノドを見てみれば、やはり釣り針がありました。ワタツミはすぐにノドから摘出して、洗い清めて山幸彦に返しました。
画像引用:徳島県(http://www.pref.tokushima.jp/takarajima/know/tai.html)