そしてイザナギが左の眼を洗うとアマテラス(天照大御神)が生まれました。続いて右の眼を洗うとツクヨミ(月読命)が生まれました。
最後に鼻を洗うとスサノオ(建速須佐之男命)が生まれました。
イザナギは、
「多くの子を生んで、最後には貴い三柱の神の子を授かった」
と喜び、首飾りをアマテラスに与えて、高天原(たかまがはら・天上界)を治めるように命じました。
続いてイザナギはツクヨミに夜の国を治めるように命じ、スサノオには海を治めるよう命じました。
こうしてアマテラスとツクヨミは、イザナギが命じたとおりにそれぞれの場所をしっかりと治めました。
しかしスサノオだけは海を治めることをせず、ヒゲが伸びて胸元にまで達する年齢になっても泣き喚いていました。その喚きっぷりは物凄く、青い山を枯れ木の山にしてしまい、川や海は水が枯れてしまうほど。おまけに喚き声が夏場にむらがるハエのように周囲に充満し、あらゆる災難がこれでもかとばかりに起こったのです。
イザナギはスサノオに尋ねます。
「どうして泣き喚いてばかりいて、海を治めないのだい?」
するとスサノオはこう答えました。
「私は亡き母が住む黄泉の国に行って、母に会いたいのです」
この答えにイザナギは激怒。
「ならばお前はもうここに住むべきじゃない!」
こう言ってスサノオを追放してしまったのでした。
海から追放されたスサノオは、アマテラスにひとこと挨拶してから亡き母の澄む黄泉の国へ行く事にしようと思い立ち、高天原へ向かいました。
すると山や川が震動し、国中が揺れたのでした。
これを聞いたアマテラスは驚き、
「弟が高天原に来るのは、きっと善い心からの行動ではないわね。私の国を奪うためじゃないかしら…」
と考えました。
アマテラスは長い髪を梳いてみずら(写真参照)に結って男装し、髪全体にも両手にも勾玉(まがたま)をたくさん通した紐を巻き付け、千本もの矢が入る靫(ゆぎ・矢を携帯するための筒状の容器)を背負って、五百の矢が入る靫も脇に抱え、手首には威勢のよい音がする鞆(とも・矢を放ったあと弓の弦が腕に当たるのを防ぐブレスレット)をはめ、弓を振り立て、地面を脚がめり込むくらいに踏みしめ、土を淡雪のように蹴散らかし、荒々しい態度でスサノオを待ち受けました。