イザナギは、
「ひとりの子と引き換えに最愛の妻を失うとは」
と嘆いてイザナミの枕元で泣き悲しみました。
彼女の亡骸は出雲(島根県)と伯耆(鳥取県)の境にある比婆山(ひばやま・島根県安来市)に葬られました。
そしてイザナギは悲しみのあまり、長い剣でヒノヤギハヤヲの首を斬ってしまうのです。剣から落ちた彼の血からも、さまざまな神が生まれました。また命を絶った身体からもいくつもの神が生まれました。
イザナギは死んだイザナミに会いたいと願いました。彼女の後を追って黄泉の国(よみのくに・地下にあるという死後の世界)に向かった彼は、黄泉の国の御殿の戸の前に着き、言いました。
「愛しい妻よ、国造りはまだ終わっていません。だから戻って来ておくれ」
イザナミは答えます。
「それは残念。早く来てくれなかったので、黄泉の国の食べ物を食べてしまったわ。
でもせっかく来てくれたんだもの。なんとか帰りたいわ。黄泉の国の神にお願いして来るので待っててくださいね。その間、私を見てはいけませんよ」
こう言ってイザナミは御殿の奥に籠ってしまいました。
イザナギはずっと待ちましたが、あまりに待ちくたびれたので、灯りを点けてそっと覗いてみると…
イザナミの身体には蛆(うじ)が湧き、頭から胸から手から足から雷がゴロゴロと鳴り響く異様な姿になっていたのです。
イザナギは怖くなり、逃げ帰ろうとしましたが、イザナミに見つかってしまいました。
「私に恥をかかせたわね!!」
イザナミはそう叫ぶと、鬼女に命じて彼のあとを追い掛けさせたのです。
追う鬼女。追われるイザナギ。
イザナギは黒い蔓草の髪飾りを頭から引き抜くと、それを思いっきり投げました。すると髪飾りが落ちたところに、ブドウの木が生えてくるではありませんか。
鬼女はブドウに夢中。その隙にイザナギは走って逃げるのでした。
しかしブドウをあっという間に食べ終わった鬼女が、またもや追いかけてきます。追いつかれそうになったイザナギは、髪に挿していた櫛の歯を折って投げました。すると櫛の歯が落ちたところに、タケノコが生えてきました。
鬼女はタケノコにまたもや夢中。その隙にイザナギは再び走って逃げるのでした。
画像引用:公益社団法人 島根県観光連盟(http://www.kankou-shimane.com/ja/gallery)