スサノオが出て来て彼の姿を見ると、
「こいつは大国主という男だ」
と言い、中に呼び入れました。
そして大国主をヘビがいる部屋に寝かせたのでした。
しかし、スセリビメがヘビ除けの効果がある長い布を大国主に手渡して、
「ヘビが噛もうとしてきたら、この布を三回振って追い払ってください」
とアドバイスしたので、教わったとおりにやってみたところ、ヘビは大人しくなりました。
おかげで大国主は安眠し、翌朝無事に部屋から出て来ることができたのです。
次の夜スサノオは、大国主をムカデとハチがいる部屋に入れました。今度もまたスセリビメがムカデとハチ除けの効果がある長い布を手渡して、前回同様のことを教えました。おかげでまたも何事もなく、大国主は部屋から出て来ることができました。
続いてスサノオは、鏑矢(かぶらや・射ると音が鳴る矢)をだだっ広い野原に向けて放ちました。そして大国主にその矢を探しに行かせるのです。
彼が探しに行ったのを見計らって、スサノオは野に火を放ち、炎で囲い焼こうとしたのでした。
野に火が放たれ、大国主が逃げ場も判らず困っていると、ネズミが出て来て、
「外から見た感じはすぼまって狭そうだけれど、中は洞穴になっているよ」
と教えてくれました。そこを足で踏みつけたところ、穴が開いて彼の身体がストンと地面の下へ落ちたのです。
穴の中にいる間に炎は消えてしまい、おまけにネズミが鏑矢を探して持って来てくれていました。鏑矢に付いていた羽根はネズミの子たちが全部噛みちぎってしまっていました。
さすがにこの炎の中では生きてはいまいと、スセリビメは彼を弔う道具を涙ながらに手にして、スサノオもまた彼の死を確信して焼け野原に立ちました。
ところが大国主が鏑矢を持って戻って来たので、スサノオは彼を家に連れて帰り、今度は大きな部屋に入ります。
そして大国主に自分の髪のシラミを取り除くよう命じました。
ところがどっこい、髪にはムカデがうじゃうじゃと。すかさずスセリビメがムクの実(※写真参照)と赤土を彼に授けます。
大国主はムクの実を噛みちぎって、赤土を口にふくみ、唾と一緒に吐き出しました。スサノオはそれを聞いてムカデを噛みちぎって吐き捨てているのだと思いこんで、感心しつつもそのまま眠ってしまいます。
大国主は寝ているスサノオを長い髪を掴むと、部屋の天井の木にぎゅーっと結び、五百人もの人が引っ張るほどの大きな岩を持って来て、部屋の扉を塞いでしまいました。
そしてスセリビメを背負い、スサノオの大きな刀と弓矢と琴も一緒に持ち逃げしようとしました。
ところが琴を木にぶつけてしまい、地面が震えるほどの大きな音を立ててしまいます。眠っていたスサノオは驚いて飛び起きましたが、その衝撃で髪を結んでいた柱が倒れ、屋敷がぶっ壊れてしまいました。
結んだ髪をほどいている間に、大国主とスセリビメは逃亡。
それでもなおスサノオは黄泉比良坂(よもつひらさか・現世と黄泉の国の境目にある坂)まで追いかけて来て、遥か遠くにいる大国主に向かってこう叫びました。
「お前が持ち逃げした刀と弓矢を使って、お前の兄弟の神を山や川に追い払うとよい。
お前は大国主神となり、またはウツシクニタマ(宇津志国玉神)の名で、私の娘を正妻として、宇迦山(うかやま・島根県出雲市)の麓に高い柱を立てて高天原に届くやもしれないほどの高い宮殿に住むといいわい! バーロー」
こうして大国主は刀と弓矢で兄弟の神を山や川へと追い払い、国づくりを始めました。
その後、大国主は最初の話のとおりヤガミヒメと結婚。彼女を出雲に連れて来たものの、正妻のスセリビメの存在を恐れ、生まれて来た子を木の股のところに置いて因幡へと帰ってしまいました。その神は木俣神(きのまたのかみ)と呼ばれています。